当ブログでは恐らく初めての、そして恐らくは最後の、ゲームと関係ない純粋なコミックスの感想となるでしょう。
「ひとり暮らしのOLを描きました」(ゼノンコミックス/黒川依)の感想です。クリティカルなネタバレを含みます。
少ないボリュームの割に税抜920円という価格に俺が泣きそうです。
本書の主人公は「ひとり暮らしのOL」さん。
登場人物は彼女ひとり。
舞台も彼女の部屋だけです。
OLさんは今日も一日がんばれません。
涙を流しながら会社に行く気力を溜めたり。
休日をベッドに座って何もせず過ごしたり。
お祭りで買ったたこ焼きを食べた後、つきまとう寂しさに涙を流したり。
身体と心をすり減らしながら、なんとか日々を生活していきます。
この作品にはセリフはありません。
タイトルの説明と、あとはイラストだけで話が進みます。
ですが、セリフは無くても私たちにはOLさんの気持ちが自分の事のように分かります。
なぜなら、OLさんは私たち自身を映す鏡だからです。
私たちのような打たれ弱い人種は、誰しもがちょっとした悲しみに傷ついた記憶を持っているでしょう。
OLさんが同窓会に行って誰とも話せず一人たたずんでいる時、彼女の胸中を私たちは容易に想像する事が出来ます。
それだけではありません。
OLさんが夜中に好きなDVDを見て幸せを感じていたり、カーペットに寝転がったら背中にホコリがついてしょんぼりしたりしている時にも、私たちは共感を感じることができます。
雑多な日常の中に埋もれてしまっている、普段の生活の中のちょっとしたやるせなさや悲しみ、そして喜びを、OLさんは彼女なりのめいっぱいで表現してくれているのです。
私たちの代わりに。
感情を素直に表現する、可愛らしいいたいけなOLさん。
ですが、3巻以降、彼女に変化が現れます。
ストーリー上何かイベントが起こるわけではないのですが、その変わりようは俺にははっきりと分かります。
表情の変化が減り、けだるげな目をしていることが多くなります。
笑ったり泣いたりすることが減ってきます。
変な遊びをすることが少なくなります。
そして、かえるのピクルス(OLさんの持っているぬいぐるみ)の存在感が薄れていきます。
この変化が何を表すのか、まだ未熟な俺には分かりませんが、きっとこれが「大人になる」という事なのでしょう。
ひとり暮らしの生活の中で、ひとりで生き抜く強さを、彼女は手に入れていったのではないでしょうか。
そして最後に、彼女は部屋を引き払い、ひとり暮らしの生活を終わりを告げます。
明確に表現はされていませんが、彼女はミリオタのゲイラッパー(こういう肩書のキャラがいる)の家に同棲するために引っ越していったのだと俺は確信しています。
Twitterにそれらしい絵も上がっていましたし、作中でかえるのピクルスにパートナーが現れたのもその暗喩でしょう。
あのか弱かったOLさんとはまるで別人のような行動に、俺は強いショックを受けました。
か弱い私たちの代弁者であったOLさんが、幸せな生活に向かって力強く行動を起こしたことに、まるで彼女が別の世界の人間になってしまったような気がしました。
でも、そんなものですよね。考えてみればOLさんの行動は当然のものです。
彼女は、誰かと共に歩く強さを手に入れたのですから。
私たちの心の代弁者であり、私たちの弱さを体現してくれたOLさんは、強く成長して一歩を進み始めました。
では私たちはどうか。いつまでも「がんばれない」ままでいいのか。
OLさんの強さを見習い、今度は私たちこそが、彼女の強さを体現して成長する番なのではないでしょうか。
「あなたたちももう人生3巻目くらいに入っているのだし、いつまでも不幸なままではいられないんですよ。」
この作品はそんな、寂しくて厳しいけど、でも優しいメッセージを私たちに送っている。
そう思えてしまうのです。
【OLさんの泣いた話の数まとめ】(俺調べ)
1巻:11
2巻:6
3巻:4
4巻:4
5巻:2
【OLさんの変な遊びまとめ】(俺調べ)
■1巻
・トランプタワーづくり
・ぴょんぴょんガエルをつくる
・プラ板で遊ぶ
■2巻
・紙粘土で雷電(MGS2)をつくる
・ハードカバーの製本
・かえるのピクルスの撮影会
■3巻
・フラフープを買ってくる
・ジグソーパズル
・切り絵をつくる
・生ハムメロンを試す
・てるてる坊主をつくる
・10円玉を酢につける
■4巻
・ミラーボールを設置
・歯笛の練習
・パフェをつくる
・オリジナルカクテルをつくる
■5巻
・尿素の結晶をつくる
・お菓子の家をつくる
・シャボン玉をふかす
言うほど変な遊び少なくなってるか?
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